現代演出って?
皆様はオペラの現代演出ってご存知ですか?
オペラの演出は大きく分けて二つに分類できます。
1つは時代や舞台、人物像など元の台本の設定を守って演出する、トラディショナル(伝統的)演出。
もう1つは台本のセリフや筋は守りつつも、時代や舞台などの設定を変更して演出する、現代(読み替え)演出。
テレビや映画でもよく現代版リメイク!と銘打っているものがありますよね?
ああいう感じです。
しかし現代演出!というと聞こえはいいですが、実際は”奇抜”な演出がほとんど。
僕が初めて見たワーグナーのローエングリンは、主人公の白鳥の騎士が羽生えたランドセル背負ってました。
せっかくオペラ見に行ったのにわけわからんの見せるな!普通にやれコンチクショー!と叫ぶ怒号が聞こえてきそうですが
実はヨーロッパではこの現代演出が主流、というかほとんどなんです。
理由は単純、安いから。
例えば中世の貴族社会を舞台にしたオペラ(実際多い)、当時の伝統的な豪華な衣装に宮殿のセット、派手な椅子やテーブルなどの大道具、扇子やカツラなどの小道具など…
台本に書かれた通りに演出すると、莫大な予算がかかるんですね。
それが舞台を現代の日本に移してみましょう。
宮殿はオフィス。貴族と召使は上司と部下。
デスクいくつかと観賞用植物。衣装は皆スーツ。
なんということでしょう、匠の手によって、莫大な予算がかかったはずのオペラが大変身!
…とまあこんな理屈なんですが、実際こうやって低予算でも見れる舞台を作ってくれるおかげで、
我々は本来上演できないような規模のオペラ作品を楽しんだり、頻繁にオペラハウスに足を運ぶことが出来るのです。
もちろん全ての現代演出が低予算なわけではありません!
音楽祭や○○記念公演といったイベントは大規模プロジェクトの現代演出になることが多いです。
芸術とは常に新しいものを求めるもの…という理念が根底にあり、それがたまたまコスト削減の流れとシンパシーがあったと。そういうことにしときましょう。
ただやはり低予算だと舞台が映えないので、演出家たちはあの手この手を使って観客を飽きさせないようにするわけです。
その攻防を楽しむ(?)のが現代演出の醍醐味かもしれません。
前置きが長くなってしまいました。
ということで、僕が先日見てきた歌劇「アイーダ」、なかなかユニークな演出だったので紹介したいと思います!
アイーダの概要
サッカーのあの曲!
サッカーの応援ソングとして使われる「凱旋行進曲」は誰でも知ってますよね。
「おっおー、おおおおっおっおっおおおおーおおー」ていうあれ。
このオペラの途中、エジプト軍の勝利の凱旋の場面で使われる音楽です。
あらすじ
時はファラオ時代、エチオピアと戦争中のエジプト。
エジプトの将軍ラダメスと女奴隷(実はエチオピアの王女)アイーダとの禁じられた愛。
二人の仲にエジプト国王の娘でアイーダの主人であるアムネリスは嫉妬し…。
舞台には群衆や兵士、捕虜など100人規模の合唱、バレエダンサー、凱旋行進曲の場面にはなんと象まで登場(!)、この場面のためだけにアイーダトランペットという特注の楽器まで作らせます!
アイーダトランペット
超弩級の大規模オペラ!
もうこれでもかというほどの一大スペクタクル時代絵巻!
…タイトルをクリックしてきたあなた、もうお気づきですね。
実際に舞台を見てみた。
世界でも一線級の歌劇場、ベルリンドイツオペラ。
指揮は、Bisantiさん、演出はBenedikt von Peterさん。
客席に入ると
すでに香ばしいかおりがします。
観客席のど真ん中を蹂躙して横たわる橋。
その橋の端()に開演前から男(たぶんラダメス?)がポツンと。
中央のスクリーンは真下のテーブルの上を映しているようです。
そしてなにより、オーケストラどこ??
普通は舞台の前方にオーケストラピット(略してオケピ)というおっきい穴があって、その中で演奏するのですが、
そんなものはどこにもありません。
そのまま客席の照明が落ち、観客もざわざわ…。
男がとぼとぼ歩きだすと、突然舞台が明るくなって…。
後ろにおったーーー!!!
メッシもびっくりのトリックプレー!
ちなみに舞台上に積み上げられてる灰色の箱、全部ブラウン管テレビです。
わかりにくいですが舞台横に上の方まである四角いやつも全部そうです。
合計40台くらい…よくこんなにブラウン管テレビ集めたな…。
二幕以降、このテレビそれぞれに女性の顔のどアップ映像(白黒)が流れ続けます。
たぶん奴隷を象徴してるんでしょうが、控えめに言っても怖い。
しかし見ての通り、舞台の3分の2をオーケストラが占めている状況。
どうおしくらまんじゅうしても、100人もの合唱が入るスペースないけど、どうするの…。
いざ物語が始まっても、主要3人以外は舞台に現れない。
エジプト国王や祭司らの歌声は聞こえても、どこにも見当たらず…なぜ…。
そしてついに合唱の場面、一体どうなるのかとドキドキしていると…。
突然隣のおじさんが立ち上がって歌い始めました。
お前合唱やったんかい!いや確かに上下黒黒の服着てたけども!
同じように、観客席の中に大量のサクラ(?)がいて、合唱の場面になるとその都度立ち上がって歌うという演出だったようです。
これにはさすがに度肝を抜かれました。
会場中を覆い囲むような大合唱。まさに3D。
なおエジプト国王や、エチオピア国王(アイーダの父)も、観客席の中から歌うモブキャラ扱いだったようです。
合唱だけでなく、もちろん国王たちまで上下黒黒。
アイーダトランペットの奏者は、凱旋の場面だけとってつけたかのように舞台に出てきて、演奏が終わったらそそくさと退散。
もちろん上下黒黒。
ラダメスにいたっては舞台に立ってるのになぜか黒黒。
主役の女性二人がドレスを来ている以外、全員上下黒黒。
学生オケの本番か。
結局最後まで主要3人以外は舞台上に現れませんでした。
確かにこれだと、100人以上の民衆それぞれに衣装を用意する必要もないし、スペクタクルな舞台装置も必要なく、インパクトのある場面を作れますね。
おそらく予算のほとんどはブラウン管テレビだったのではないでしょうか。
有名な凱旋行進曲中、アムネリスは新聞紙で王冠を自作してかぶり、ラダメスの全身に新聞記事を貼り付けていました。
言わんとすることはわかるが…。ちなみにアムネリス役の女性歌手、森元首相に似てました。
その後も、突然客席のあちこちでシェイカーみたいなシャカシャカする楽器(語彙力)たちを使って、
(シャカシャカシャカ…カタカタっ!チュンチュンチュン…)
とナイル川のほとりの情景をあらわす場面も。
僕の近くで演奏してたお兄さんは、出番が終わった後「その辺席空いてない?」と聞き、
空席がないとわかるやいなや足早に去っていきました。
このゆるさがドイツクオリティ。
そして「アイーダ」のラストと言えば、恋人アイーダを救おうとしたラダメスが、
軍の重要機密を漏らし、生き埋めの刑に処される。
しかし刑場に行くとそこには逃げたはずのアイーダが。
来世で結ばれることを願いながら、二人は静かに地中に沈む…。
地上では二人の冥福を祈るアムネリス。
くーっ、泣かせるね!
この感動的なラストも、現代演出にかかればなんのその。
愛を語り、二人で死を決意してるはずなのに、なぜかアイーダだけ観客席の3階に。
ロメオとジュリエットのバルコニーのシーンさながら。
そして生き埋めの場面になると、「あーれー」とアイーダだけ、どこかに去ります。
舞台上では「いなくなっちまったよぉ(´・ω・`)」という表情でアムネリスを見つめるラダメス。幕。
…いやお前死なんのかい!
感想・まとめ
ツッコミどころは満載ですが、そのツッコミどころを探し、演出の意図を考えるのも現代演出の楽しみ方ですね。
もちろん演奏も素晴らしく、隣の合唱のおじさんがほとんど口パクだったことを除けば、
とても充実した素敵な公演でした!
皆様も是非歌劇場へ運んでみましょう!