突然ですが、以前リコルディ社の調査による、オペラの死因ランキングというものが発表されました。
オペラ死因ランキング (リコルディ社集計)
— Kinox (@Kinoxful) 2015年9月4日
1. 殺人 32%
2. 自殺 24%
3. 戦闘 13%
4. 病死 10%
5. 処刑 8%
超自然的力 7%、決闘 4%、事故 3% https://t.co/E3NEjSpny9
超自然的力とかいう香ばしいワードも気になりますが、こんなランキングがあるほど、オペラというのは血生臭い筋書きが多いのです。
今回はそんなオペラの中でも珠玉の名胸クソ作品を取り揃えてみました。
あらすじを見るだけで戦慄が走ること間違いなし。
人間同士の愛憎が入り乱れた行く末は…。
舞台上で繰り広げられる様々な愛憎劇をどうぞお楽しみください…。
- 狂乱の女~ランメルモールのルチア
- 女は気まぐれ~リゴレット
- 芝居はこれにておしまいです~道化師
- あの人の首がほしい~サロメ
- 月が赤い~ヴォツェック
- きのこスープを作れ~ムツェンスク郡のマクベス夫人
- 永遠にみ栄えあれ~カルメル派修道女の対話
- まとめ
狂乱の女~ランメルモールのルチア
ベルカントオペラを代表するイタリアの作曲家、ドニゼッティが1835年に作曲したオペラ。
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領主エンリーコの妹ルチアは、エドガルドと愛し合い結婚を誓います。
しかしエドアルドはエンリーコの宿敵。
エンリーコは別の男とルチアを政略結婚させるため、エドガルドの不義を偽装。
ショックを受けたルチアは政略結婚の誓約書へサインしてしまいます。
そこへエドガルドが登場。激昂して婚約指輪をルチアに叩きつけます。
(プツンッ…)
そして結婚の祝宴の場、恐ろしいニュースが会場に届けられます。
「ルチアが、新郎を刺し殺した。」
そこに純白の花嫁衣装を血に染めたルチアが登場。
完全に気が狂った彼女は幻覚を見ながら、愛を語ります。
「エドガルドが私のところに戻ってくる…一緒に逃げましょう…」
そのまま彼女は倒れ込み、狂乱の末、息を引き取るのでした。
そしてそれを伝え聞いたエドガルドも自刃して幕。
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恐らく歴史上で初めてヒロインが精神を病んで狂い死ぬという歴史的?オペラ。
元祖ヤンデレですね。
当時精神病というのはご法度中のご法度な時代。
それを題材に取り上げる勇気に拍手。
女は気まぐれ~リゴレット
イタリアオペラの王にして、胸クソ王ヴェルディ。
彼のオペラはほとんどがドロドロの恋愛劇の果てに登場人物が死んでいくという、胸クソ台本ばかり。
魔女の予言に踊らされ殺人を犯し王の座につくものの、悲惨な最期を遂げる「マクベス」
策謀による疑心暗鬼の末、妻を殺してしまう「オセロ」
最期は亡霊に連れていかれる「ドンカルロ」(超自然的力!)
そして主要登場人物が最後全員死ぬという前代未聞の「運命の力」…。
そんな数々の胸クソの中でも、僕が最も胸クソ悪く感じるのが、リゴレット。
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リゴレットはマントヴァ公爵に仕えるせむしの道化。
まわりの人をネタにして嘲笑を浴びせるといういかにも嫌われそうな芸を得意とするリゴレットは、色んな人から恨まれ、呪いの言葉まで吐かれます。
そんなリゴレットの唯一の宝が、美しい一人娘ジルダ。
しかしそんな生娘ジルダは最近恋をしているよう。その相手は変装したマントヴァ公爵なのですが…。
ある日アンチ・リゴレットの面々は、ジルダのことをリゴレットの情婦と勘違いし、誘拐します。
そして嫌がらせのため、そのまま公爵に献上。
リゴレットが駆け付けた時にはもうロストヴァージン。
それでもジルダは公爵への愛は変わらないと訴えますが、リゴレットは公爵への復讐を誓います。
とある居酒屋。公爵は「女は気まぐれ~♪」と歌いながら殺し屋の妹を口説いています。
その様子を見たジルダは傷心。
そしてリゴレットは公爵の暗殺を殺し屋に依頼。
しかしその後…。
公爵に惚れた妹が、殺し屋の兄に命だけは助けてやってくれと頼みます。
殺し屋は渋々、真夜中の鐘が鳴るまでに他人がこの居酒屋を訪れたら、そいつを身代わりに殺すと約束します。
2人の会話を聞いてしまったジルダは、愛する公爵のため、意を決して居酒屋の扉を叩くのでした…。
リゴレットは死体入りの布袋を受け取り、川へ投げ入れようとします。
リゴレット「この中に奴が…!復讐できたぞ…!」
???「(遠くから)女は気まぐれ~♪」
リゴレット「…!?…まさか。」
恐る恐る袋の中身開けると、そこにいたのは…愛するジルダでした。
「呪いだ!」
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胸クソに必要な要素がすべて詰まってるといっても過言ではない。
胸クソのバラエティーパックや。
なおヴェルディと同い年の雄、ワーグナーは、ただの近親相姦フェチなので今回除外しました。
(ワグネリアンにころされる…)
芝居はこれにておしまいです~道化師
道化関係でもう一作。
1892年作曲、ヴェリズモオペラを代表する作品、レオンカヴァッロの「道化師」です。
ヴェリズモとは現実主義。
今までオペラは、貴族社会や神話を舞台としていたことに対し、市民の日常生活を描こうとした運動です。
そう、つまり完全なる昼ドラの世界。
この「道化師」も、実際に起こった事件を題材にしているそう。
事実は小説より奇なり…。
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座長の道化カニオが率いる旅回りの一座が、とある村を訪れ、芝居の宣伝をしています。
しかし女優でカニオの妻ネッダは、実は村の青年シルヴィオと不倫していました。
駆け落ちの相談をしていたネッダは、シルヴィオに言います。
「今夜からずっと、あたしはあんたのもの。」
その言葉を仲間の告げ口で駆け付けたカニオが耳にし、逆上。
シルヴィオは慌てて逃げ出し、カニオはネッダに情夫のことを問い詰めます。
しかし騒ぎを聞きつけた団員たちがその場をなだめ、芝居の準備を即します。
(どんな時でも道化は仮面をつけ、芝居をしなければならない。)
さてお芝居の始まり始まり。
しかしカニオは芝居の中で、ネッダの「今夜からずっと、あたしはあんたのもの」というセリフを聞き、それが先ほどの現実世界と同じ台詞であることに混乱。
芝居と現実との見境がつかなくなっていきます。
カニオ「情夫の名を言え。おれはもう道化師ではない。」
迫真の演技に、村人は拍手喝采。
ネッダは危険を悟り逃げ出そうとしますが、カニオは彼女と、ネッダを助けようと舞台に上がってきたシルヴィオを刺し殺します。
村人たちが大混乱の中、
カニオ「芝居はこれにておしまいです。」
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同じくヴェリズモオペラの中でも、プッチーニの「外套」なんてショッキングな話なんですが、殺人事件ばかり扱ってもあれなんで今回は自重。
あの人の首がほしい~サロメ
リヒャルト・シュトラウスの代表作にして、そのセンセーショナルな題材から、一大スキャンダルを巻き起こした問題作「サロメ」(1903~1905)。
原作はオスカー・ワイルドの戯曲。
聖書などに出てくる実在の人物サロメのエピソードは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
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ユダヤの王ヘロデは、兄である前王を殺し、その妻ヘロディアスを奪い今の座に就きました。
そして次はヘロディアスの娘サロメにいやらしい目線を投げかけます。
ヘロデから逃れ、テラスに出たサロメは、不気味な声を耳にします。
それはヘロデ王に地下井戸へ幽閉されている預言者ヨハナーンの声でした。
興味を持ったサロメは、見張り番を色仕掛けで誘惑し、ヨハナーンを外に出させます。
ヨハナーンに魅了されたサロメは、口づけを求めますが、ヨハナーンは「呪われよ」と吐き捨て井戸へ戻っていきました。
サロメ、ドンマイ。
さあ、スケベなヘロデ王は、サロメに踊って見せよと命じます。
始めは断っていたものの、踊りを見せれば望みをなんでも叶えてやると言われ、サロメは一枚ずつ衣類を脱いでいく「7つのヴェールの踊り」を披露しました。
サロメ「ヨハナーンの首がほしい。」
預言者の力を恐れるヘロデ王はやめさせようと説得しますが、結局諦めて首をはねるよう部下に命じます。
銀の皿の上に乗せて運ばれたヨハナーンの首を見て歓喜するサロメ。
その首を持ち上げ、唇に口づけします。
「これであなたは私のもの」
ヘロデ王「殺せ!!」
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まさにエログロとしか言いようのないお話。
原作はあまりの不道徳さにながらく上演されなかったという曰くつきの戯曲。
またリヒャルト・シュトラウスの音楽が不気味で、本当によく出来てるんです。
「7つのヴェールの踊り」の音楽は特に有名で、単体でもよく演奏会で演奏されます。
演出によっては本当に全部脱いじゃいます。
もはやただのストリップショー。
美人歌手に演じてもらいたいですね。
同じくリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」も相当グロテスクなオペラですが、あらすじ説明がややこしいので割愛させてください。(怠慢)
月が赤い~ヴォツェック
アルバン・ベルクによって1922年に完成された「ヴォツェック」は、史上初めて無調で書かれたオペラです。
ベルクについてはこちらの記事でも取り上げています。
無調音楽の持つ緊張感や汚い響きは、人間の苦悩や醜さ、内面的なものを描き出すのに実にマッチしていました。
ただ彼自身はこの作品が世間に受け入れられるわけがないと考えていたらしく、初演が評判を呼んだことにかなり戸惑ったようです。
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貧しい兵卒ヴォツェックは、内縁の妻マリーと息子と三人で暮らしています。
しかし、最近おかしなことを口走るようになったヴォツェック。
実は生活の足しに人体実験のアルバイトをしており、精神が錯乱し始めてきたのでした。
そんな中、マリーは軍楽隊の鼓手長に迫られ、体の関係を持ってしまいます。
ヴォツェックは上司に「お前のうちの料理に男の髭が入ってなかったか?」と、マリーの浮気を仄めかされます。
家に帰ったヴォツェックは、玄関先でマリーを責め、手をあげますが、
マリー「やめて!手でぶたれるより、ナイフで刺されたほうがましだわ」
家の中に入っていくマリーをじっと見送ったヴォツェックは呟きます。
「ナイフのほうがましだと。」
夜の兵舎。ヴォツェックが眠れないでいるところに、鼓手長が陽気に帰ってきます。
「おれには女がある」と、マリーとの関係を仄めかし、ヴォツェックと取っ組み合いに。
鼓手長はヴォツェックをねじ伏せ意気揚々と出ていきます。
ヴォツェック「順々に一人ずつか。」
信心深いマリーは自分の罪を悔いて神に祈ります。
夜、池のほとりにマリーと連れ立ってヴォツェックがやって来ます。
ヴォツェック「お前は善人か?貞操か?」
「なんてかわいい唇。」
「…月が赤い。血塗られた剣のようだ。」
マリーは錯乱したヴォツェックに刺殺されます。
凶器を捨てて逃げたヴォツェックは、居酒屋で気を紛らわそうとしますが、シャツの血痕を見つけられ外に飛び出します。
再び池のほとりに戻ったヴォツェック。
証拠隠滅のためにナイフを遠くに沈めようと池に入り、そのまま溺れてしまいます。
翌朝、遊んでいた子供たちが、マリーの息子に「君のお母さん死んだよ」と告げ、池の方へと走り去りますが、意味の呑み込めない息子は一人遊びに興じるのでした。
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このオペラは本当に怖い。
今まで実演で観た中で、最も怖いオペラでした。
話の筋も怖ろしいし、なによりベルクの音楽がとてつもなく怖い。
けど、その緊張感がくせになる。20世紀最高のオペラ作品と言われるだけあります。
きのこスープを作れ~ムツェンスク郡のマクベス夫人
若かりしショスタコーヴィチの運命を決定付けたオペラ。
その退廃的な題材と音楽はスターリンの逆鱗に触れ、機関誌「プラウダ」で「音楽の前に荒唐無稽」とぶった切られ、命の危険にまで晒された曰くつきのオペラです。
その後20年以上に渡って上演禁止となってしまった問題作。
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ジノーヴィと結婚したカテリーナは、意地悪な義父ボリスらと一緒に暮らしていましたが、ある晩、下男のセルゲイにレイプされ、その虜になってしまいます。(おいおい)
しかしその現場をボリスに取り押さえられてしまい、ボリスは息子を呼びにやらせ、カテリーナにきのこスープを作れと命令。
切羽詰まったカテリーナはスープに殺鼠剤を盛り、ボリスを毒殺、キノコによる食中毒とごまかします。(おいおいおい)
その後もボリスの亡霊に悩まされながら逢瀬を重ねる二人ですが、ついに夫ジノーヴィに現場を抑えられるものの、今度はセルゲイがジノーヴィを殺害。
死体を納屋に隠して、カテリーナとセルゲイは結婚式を挙げます。(おいおいおいおい)
しかし宴会の最中、酔っ払いに死体が見つかり、まさかの結婚式中に二人は逮捕。
結局二人ともシベリア送りになってしまいます。
全てを失ったカテリーナにとって、セルゲイの存在だけが頼りでした。
しかしセルゲイはあっさり心変わり。別の女囚と関係を持ってしまいます。
全てに絶望したカテリーナは、女囚を道連れに湖に身を投げたのでした。
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レイプシーンを音楽化したり、シニカルな楽曲を多く挿入したりと、そりゃスターリンなら怒るわとしか言いようのない作品。
陰惨な内容ですが、オペラとしてはめちゃくちゃ面白いですよ。
ちなみにこのオペラによって崖っぷちに追い込まれたショスタコーヴィチは、革命を賛美した交響曲第5番の作曲により、その窮地を脱します。
永遠にみ栄えあれ~カルメル派修道女の対話
あまりに血生臭い話ばかりだったので、最後は清らかな物語を取り上げて終わりましょう。
フランス6人組の一人、プーランクによるオペラ、カルメル派修道女の対話。
プーランクと言えば軽妙洒脱な作風で知られていますが、実はこういう信心深い作品も多く残しています。
初演はなんと1957年。つい60年前。
18世紀のフランス革命時、革命派によって特権階級だったキリスト教聖職者が弾圧された際、革命派に従わず信仰を貫いたために、ギロチンに処せられた16人の修道女の史実に基づいた物語。
以下のサイトでのあらすじがとても分かりやすかったので、引用させてもらいますね。
フランス革命の争乱期、貴族の娘ブランシュは生まれつき神経過敏で恐怖心が強い少女で、生きにくさを感じ、家族の反対押し切ってカルメル会修道院に入る決意をします。
修道院院長は「修道院は避難所ではない。神はあなたの強さではなく弱さを試そうとなさっている」と諭しますが、ブランシュの決意は固く、院長はかつて自分が望んで叶わなかったのと同じ修道名を希望していることを知って、因縁のようなものを感じて受け入れます。
院長は病重く死期が迫っていました。ずっとブランシュを我が子のように気にかけていましたが、最期の時に院長は死の恐怖に捉われて激しく取り乱し、「30年以上聖職についていたのに何の役にも立たなかった!神は私を見捨てた!」と見苦しく呻いて死んでゆきます。
ブランシュと歳の近い修道女コンスタンスは無邪気で陽気な性格ですが、「私は死は怖くない」と言い切り、院長の哀れな最期について「あれは院長先生の死ではないと思う。誰か別の人の最期と入れ替わり、その人の死を引き受けたのでは」と言ってブランシュをハッとさせます。
やがて革命派の宗教弾圧が進み、修道院も解散を命じられます。それに従わずマリー修道女長の先導で皆は殉教の道を選びますが、ブランシュは怖くなり逃げ帰ります。
しかし実家は改革派に占拠され父は処刑され、ブランシュは元の自分の家の女中に甘んじるしかありませんでした。
迎えに来たマリーをも拒絶したブランシュですが、町で仲間の修道女たちが逮捕されたという噂を聞き、にわかに処刑場に駆けつけます。
広場では群衆に囲まれ、修道女たちは聖歌を歌いながら一人ずつ断頭台で処刑されてゆきます。最後のコンスタンスは、断頭台に向かう前にブランシュの姿を見つけ微笑み、ブランシュは彼女の消えた聖歌を引き継いで歌いながら後に続きます。
http://qqcumb.web.fc2.com/dialog.htmlより
一度逃げ出した臆病者のブランシュが戻ってきて、途絶えた聖歌を歌いながらギロチン台に向かう様は、涙なしには語れません…。
ギロチンの音が16回繰り返されて、毎回ビクッとしますが。
うん、まあ、16人もギロチンにかけられてる時点で十分血生臭かったね。
まとめ
実に濃厚な7作でした。
人の血でお腹一杯になったのは初めてだよ。
確かに今回取り上げた作品も、登場人物の死因は大半が殺人ですね。
オペラの世界は物騒や…。
普段の生活では味わえない体験ができるのも、オペラの醍醐味の一つですよね。
ただどこぞの漫画のように、当記事に影響を受けて殺人を犯しましたみたいな自供だけはやめてくださいね。