古今東西いつでもゴシップの種になってきたのが、”盗作疑惑”。
日本でも東京五輪のエンブレム問題など、頻繁にお茶の間を賑わせています。
音楽の世界も例外ではなく、どの曲がなにに似ているといった話は日常茶飯事。
その中でも、著作権の存在しないクラシック音楽はパクりやすいネタなんじゃないでしょうか。
今回は、そんなクラシック音楽からの盗作疑惑がささやかれている有名曲たちを検証してみます。
よく知られているあの曲が、実はぱくりかも?
クラシック界におけるパクリ
パクリもれっきとした作曲技法
パクリとは
パクリの語源は諸説あるが、食べ物を食べる時の擬態語「ぱっくり」「ぱくり」だと言われている。
そこから警察などが、犯人を逮捕する事を、「ぱくり」と食べることになぞらえて「犯人をパクる」と言ったり、万引きや他人の物を盗むことも「ぱくり」と食べることになぞらえて「商品をぱくる」と表現するようになったという説。
さらに現代では人から何か借りたまま返さないことを「借りパク」と表現したり、模倣や盗作にもその単語が当てられるようになっている。
ニコニコ大百科より
まず作曲家の名誉にかけて声を大にして言いたいのは、パクリも芸術なんです!
いや開き直りとかそういうのではなくて、古くから作曲技法として定着しているのです。
一般的に引用と呼ばれるもので、中でも色々あります。
メタファー
なんらかのメッセージ性を伝えるために、意図的にそのイメージを想起させる曲を登場させること。
例えばショスタコーヴィチは交響曲10番という自伝的作品において、
「ボリス・ゴドゥノフ」(ムソルグスキー作)という独裁君主が主人公のオペラの旋律を登場させることで、
スターリンに抑圧される作曲者という構図を描きました。
オマージュ
尊敬する作品や作曲者を仰ぐ目的で作曲されたもの。
例えばラヴェルの「クープランの墓」は、クープランの生きた時代へのオマージュとして作曲されました。
パロディ
こちらも引用の一種ですが、揶揄や風刺、ジョークとして使われるもの。
ヒンデミット「さまよえるオランダ人」(ワーグナー)のパロディとして書かれたのが
「朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された「さまよえるオランダ人」序曲」
これでもかと言わんばかりの悪口を詰め込んだタイトル。
他にも様々な目的を持って、作曲家たちは意図的に引用を使いました。
これらは確かに他作品を模倣していますが、悪意あるパクリとは言い切れませんよね。
なんだ、真面目な記事かよ…とがっかりしたあなた、安心してください。
今回取り上げるのはこういうものではなく、もう少しやっちまったな感のある作品ばかりです。
疑惑を検証する
あくまで似ている似ていないは主観的なものなので、ご自身でご判断ください。
容疑者その1~NHKきょうの料理のテーマ(冨田勲)
誰もが適当にチャンネルを回してたら一度は目にするきょうの料理。
実は60年以上放映され続けている超ご長寿番組です。
このテーマソングは冨田勲さん作曲、「母が台所でまな板の上で包丁で切っているところをイメージして」作られたそう。
かわいらしいテーマ、ウッドブロックがコトコトとまな板の音を表現しているのもいいですね。
ただこの曲にそっくりのクラシック曲が存在しているのはご存知ですか?
アルヴェーンが1901年に作曲した「スウェーデン狂詩曲第1番 夏至の徹夜祭」。
こちらの冒頭のテーマをお聴きください。
Hugo Alfvén - Swedish Rhapsody No. 1: "Midsommarvaka"
僕自身検証のために何回か聴き比べたんですが、途中からどっちがどっちかわからなくなりました。
うーん、これは限りなく黒に近いグレーですね。
ちなみにこの冒頭のクラリネットのテーマ、元はスウェーデン民謡からの引用だそうです。
容疑者その2~ナウシカ・レクイエム(久石譲)
みんな大好きジブリ。
僕もジブリ映画はほぼ全てコンプリートしてるくらい大好きなアニメーションです。
その立役者の一人が、何と言っても久石譲さんによる音楽でしょう。
印象的な名曲を数多く残し、ジブリ曲によるコンサートまで開いちゃうのですから。
ただ多少音楽の知識があると、ちょっとやりすぎじゃね?と言いたくなるくらいクラシック曲からの引用がたくさん…。
場面によってはパロディやオマージュなんだろうなと割り切れるのですが、
明らかにバレなければ事なかれ的な曲もある気がします。
そのうちのひとつが、こちら「風の谷のナウシカ」より、レクイエム。
後半の「らん、らんらららんらんらん」という少女の声は、誰もが一度は声マネしたことがあるんじゃないでしょうか。
※打ち込み音源で失礼。
この荘厳な冒頭、ヘンデルの「サラバンド」にそっくり…。
もちろんその後のロマンティックなハーモニー展開は自作でしょうが、冒頭はたまたまの域をはみ出しちゃってるような。
ヘンデル:ハープシコード組曲 第2番 HWV437 第4曲 サラバンド
後半の「らんらららんらんらん」もパガニーニの「24のカプリース」からの盗作疑惑が持たれています。
容疑者その3~スターウォーズのテーマ(J.ウィリアムズ)
もはやこの映画を知らない日本人はいないでしょう。
宇宙規模の大河絵巻、スターウォーズ。
こちらもJ.ウィリアムズの音楽抜きには語れません。
僕自身、スターウォーズのサントラが大好きで、特に王座の間の音楽なんて何回聴いたことか…。
そんなスターウォーズですが、ワーグナーのオペラやホルストの「惑星」の影響を多分に受けています。
「ライトモティーフ」というそれぞれのキャラクターや状況に特定の音楽をあてがう手法はワーグナー由来。
またそのスペクタクルな曲想は「惑星」由来ですね。
特にホルストの影響は強く、随所に「惑星」そっくりなメロディが出てきます。
例えばこの部分。
有名なメインテーマの中間部分、1分45秒あたりをお聴きください。
この部分と、「惑星」より火星~戦争の神~のラスト。6分50秒あたりから。
Gustav Holst - The Planets - Mars, the Bringer of War
明らかに意図してマネしてますよね。
メインテーマのその後も、完全に三拍子の火星。
J.ウィリアムズの場合は恐らく隠す気もなく、オマージュだと言えるでしょう。
容疑者その4~ゴジラ(伊福部昭)
こちらも日本人なら誰もが知っているゴジラのテーマ。
あまりに有名なので音源はいいですよね。
このゴジラのテーマ、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調のフレーズにそっくりというのは有名な話。
3楽章の冒頭、30秒くらいに初めて現れ、その後も何度も出てきます。
2分20秒あたりからは頻出。
Yuja Wang plays Ravel’s Piano Concerto (3)
実際作曲者の伊福部昭はラヴェルのことを尊敬しており、自然とその旋律が出てきてしまったんでしょうね。
このピアノ協奏曲、ジャズの要素もあり楽しく、曲も短いので時間があれば是非全曲きいてみてください。
ちなみにこの盗作疑惑?は本人の周りでもネタにされていたらしく、
伊福部の弟子の一人である黛敏郎が、師のの叙勲を祝うコンサートのために「Hommage A A.Ifukube」という曲を書いています。
その内容というのが、ゴジラのテーマを演奏していたら、最後ラヴェルの協奏曲になってしまうというもの。
こちらの最後、15分20秒から当曲。2分ほどの短い曲です。
ゴジラのテーマに始まり、タプカーラ、アイ・アイ・ゴムティラという伊福部の代表作を経て、ラヴェルのピアノ協奏曲へ。
これを祝賀コンサートで本人を前に演奏される伊福部先生、相当愛されていたんでしょうね。
ラヴェルつながりでいうと「ボレロ」も、水戸黄門のテーマにそっくりなリズムが使われていますね。
容疑者その5~赤とんぼ(山田耕作)
ラストは日本のこころ、山田耕作の赤とんぼ。
僕の大好きな日本歌曲でもあります。
この赤とんぼにも実は盗作疑惑があり、「赤とんぼ騒動」として昔論争になったそう。
それがこちら、シューマン作曲「序奏と協奏的アレグロop.134」。
こちらの2分40秒あたりで初出。その後も重要なテーマとして何度も登場します。
Angela Hewitt : Schumann Introduction and Concert Allegro 2011
「夕焼け小焼けの赤とんぼ」の部分がほとんど同じ…。
シューマンはこの旋律を古いドイツ民謡から引用したとも言われています。
いずれにせよ、ドイツに留学していた山田耕作がこの旋律を耳にしていた可能性は否定できませんね。
まとめと弁明
さあ皆さん、今回の検証誰がギルティだと思いましたか?
…というのは冗談で、
もちろん冒頭に書いたように、こういうものは主観的なものであり、パクリだと断定しているわけでも、ましてや断罪するつもりもありません。
もちろん悪意ある盗用はどうかなと思いますが。
作曲者のために弁明しておくと、
映画音楽などの劇伴音楽は、先に映像を見せられて「ここにこういう風な音楽をつけてくれ」と依頼を受けるのが多いので、
「ここはホルストの惑星みたいな音楽」と言われたら、必然的にそれに似た曲を書かざるを得ません。
また世の中には幾万もの音楽があるわけで、気づかずに以前聴いたことのある旋律を書いてしまうこともあるでしょう。
そんな幾万の音楽がある中、次々と新たな曲を生み出していく作曲家の皆さんには、本当に頭が下がります。
また機会があれば、クラシック作曲家同士のパクリ疑惑も検証してみようと思うので、乞うご期待ください。