作曲年:1901年(op.11)
♪ 知名度:★★☆☆☆
♪ キャッチー度:★★★★★
♪ するめ度:★☆☆☆☆
ジャンル:管弦楽曲
属性:お祭り系
概説:ルーマニア魂!
ヨーロッパの東端に位置するルーマニア。
ルーマニアと言えばドラキュラの国。そして伝説的指揮者、チェリビダッケの生まれた国。
そんなルーマニアのクラシック界に燦然と輝く一曲!(スケール感)
ルーマニアのクラシックと言えばこの曲!(しか知らない)
この曲と言えばルーマニアの魂!と言っても過言ではないほど、ルーマニア人たちのソウルソング!
それが今回紹介する「ルーマニア狂詩曲第1番」。
…え、なんでいきなりそんなマイナー曲をって?
有名曲はもう色んな人が紹介してるからいいでしょ。(投げやり)
演奏動画
※都合により削除中。
あの厳しいチェリビダッケが、勢いに任せて楽しそうに踊っている…
これぞお国ものの血が騒ぐといったとこでしょうか。
世の女子高生達がソーラン節を聴くと踊りだすのと同じですね。(たぶん違う)
こちらはベルリンフィル・ラトルのダイジェスト。
Enescu: Romanian Rhapsody No. 1 / Rattle · Berliner Philharmoniker
ジョルジェ・エネスクについて
1881年ルーマニアの片田舎に生まれ、1955年73歳で没。
ルーマニア史上最大の音楽家であり、その偉人度はお札に肖像が使用されるほど。
とは言っても、その名声のほとんどは世界最高峰のヴァイオリニストとしてでした。
また教育者としても優れ、メニューインやギトリスなど、門下には世界的なヴァイオリニストがずらり。
では作曲の腕前は…?
なお、第二次世界大戦後にルーマニアが共産圏の仲間入りしてからは祖国を離れ、生涯パリに住み続けました。
お札。フリー画像に良いものが見つからずなぜかバイクが…。
作品解説
そんなエネスクが若き時代に書いたものがこの一曲。
若さゆえのエネルギーと情熱に満ちた作品です。
第1番とあるだけに、もちろんルーマニア狂詩曲第2番もあります。
こちらは対照的に、田園風景を描いたような穏やかな曲想…と言えば聞こえはいいが
なんせ地味です。
1番の方が人気なのも頷けますね。
ちょっと専門的に
せっかくなので、指揮者としての視点(?)も含めて、もう少し曲を詳しく見てみましょう。
難しくてわからない、という方はさささっと読み飛ばしてください。
音源を聴きながら読むとより楽しめるかもしれません。
全体としては変奏曲風の前半、高速テンポの後半、大きく二つの部分に分かれます。
冒頭、いきなり静寂の中からクラリネットののどかな歌声が。
オーボエがそれに呼応するかのように歌い返します。
この冒頭のやりとりは、まるで森の中で動物たちが声を掛け合っているよう。
実に描写的な始まりです。
(IMSLPより)
この掛け合いがそれぞれフェルマータを挟んで続き、12小節の大きなフレーズを作ります。
実はこのフェルマータ、作曲者によってそれぞれ「長く」「短く」と細かく指示されており、
指示通りに演奏すれば即興的に聴こえるよう配慮されています。ニクい!
この最初の12小節のテーマが、この後ポルカ風になったり、舞曲風になったりと
様々な踊りに形を変えて現れます。
これが指揮者としては意外と厄介!
コロコロ変わるテンポや拍子の移り変わりを明快に示しつつ、それぞれの踊りのキャラクターを作り分ける。
腕の見せ所です。(後半はもう見せるところがない)
変奏の途中にはハープのトレモロ=コブザ(ギターに似た民族楽器)のパロディや、ジプシー音階(ルーマニアはジプシー=ロマ人がとても多い)、
完全5度(ドとソ)の持続低音=バグパイプのパロディなど
ルーマニアの民族的要素をこれでもか!と詰め込んでます。
民族的要素のバラエティーパックやー。
また全体的にメロディの音をあえて細かく、装飾的に書き込むことで、即興的に聴こえるような工夫も施されています。
これもジプシー風を意識した結果ですね。
このこてこてのルーマニア臭が、ルーマニア人達の血を騒ぎ立てるのでしょう。
(imslpより)
さて音楽は少しずつ速くなっていき、先ほどの変奏の1つ、アルプス一万尺みたいなメロディが、様々な楽器によって掛け合い、次々と変奏され、
変奏を繰り返す度にどんどんと熱気を帯びていきます。
その熱気が木管楽器全員でのトリルで最高潮になったところで、弾けるようなアップテンポのダンスがスタート!後半の部の幕開けです。
ここにはこの曲初めてフォルティッシッシモが書かれてます。
フォルティッシッシモですよ、フォルティッシッシモ!(言いたいだけ)
この音楽は、ルーマニアの「ホラ」という踊りからきているようです。
ここからはもうひたすら乱痴気騒ぎ。
チェリビダッケもダンシンしてるように、指揮者はもう踊るくらいしかやることがありません。(言い過ぎ)
このホラの音楽、終盤近くになるとさらにジプシー風にアレンジされ、その興奮が再び最高潮に達した瞬間、突然オーケストラが休止します。
実はこの休止部分、ハープにだけ余韻を残せとの指示が。
これによって魔法の余韻のような、不思議な残り香を味わえます。
長い休止のあと、再びテンポを落としてアラブ風のコミカルな行進曲が始まったかと思えば、
突然ギア全開、一気呵成に畳みかけるように終わります。
おわりに
若きエネスクのルーマニア愛全開なこの曲。
ところどころ光るアイディアはありつつも、
単純な和音構成、楽器を同時に重ねすぎるベタ塗りなオーケストレーション、
また特に金管楽器の使い方が雑(やはり本職がヴァイオリニストだから?)と、
かなり粗削りな部分も多い作品です。
同時代にドビュッシーやマーラー、R.シュトラウスがバリバリ作品を発表していたことを考えると、確かに完成度は大きく劣ると言わざるを得ません。
それでも時代を超えて、ルーマニアの人々にとってのシンボルとして聴き続けられる曲って、なんだか素敵じゃありませんか?
この曲に宿るルーマニアへの愛情や情熱、是非ご自身の耳で探し出してみてください。
P.S.
ルーマニア滞在中、ファーストフードのCMでもしょっちゅう流れてました。
さすがソウルソング。